三宅琢先生

日本眼科学会眼科専門医、日本医師会認定産業医、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員。

眼科と産業医として働く傍らで、Gift Handsの代表として視覚障害者ケア情報サイトを運営し、便利グッズの開発やアプリ紹介を行う。また代表として全国のApple Storeや盲学校、視覚障害者支援施設や医薬専門学校等でiPadとiPhoneを用いたロービジョンケア(視覚に障害があるため生活に何らかの支障をきたしている人に対する医療的、教育的、職業的、社会的、福祉的、心理的等の支援)に関するセミナーや講演等を行っている。

 

1.今の職場や科を選んだ理由

 

私は現在自社であるGift Handsを拠点に、産業医、眼科医、Apple製品を用いた障害者ケアコンサルトという三つの専門を持って働いています。

 

大学時代に眼科の難病が原因で友人を失ったため最も興味のあった眼科学と人の生き方や死に方と向き合える終末期医療という大きく異なる二つの進路で、私は初期研修医時代に悩んでいました。

 

対極をなす進路に悩んだすえ、眼科学を選択して専門医と博士号を所得した臨床医6年目の夏、かつて友人を死においつめた難病の治療法が10年の歳月をかけても進歩がない事を知り再び進路を悩みました。

 

そんな時期に人を仕事に適応させるという産業保健という分野に出会い、自分の一番やりたかった“人を見る”という仕事を初めて見つけた感覚になりました。また時を同じくして、眼科医としても難治性の視覚障害者の生活をiPad等で改善させるデジタルケアという分野に可能性を見いだす事が出来ました。そして“治す”のではなく“導く”という仕事こそ自分の天職だと直感し、大学病院を出てGift Handsを起業しました。

 

 

2.今の職場や科のメリットデメリット

 

起業して組織の束縛を離れ、全てのスケジュールを管理できる裁量権の大きさが今の職場の最大のメリットです。

 

一方で仕事を入れ過ぎる傾向があり、休みも仕事の一つとしてスケジュール管理をするなど自己管理能力が問われる事や、誰も進んだ事のない道を歩むため強い信念のコンパスを持っていないと容易に方向性を見失う事がデメリットです。

 

三つの専門分野をバランスよく持つ事でそれぞれの専門性を常に外の世界から客観的に評価できる事、分野を超えて人のつながりが拡散し同じ価値観の仲間と仕事がつながる事がマルチDr.のメリットです。

 

一方肩書きの記載が複数存在するため、初対面の人に自分の職業を説明するのが煩雑で理解してもらうのに時間がかかるのがデメリットです。

 

 

3.新卒(研修医)のときの苦労、頼りになった先輩の一言、辛いときどのように乗り越えたか

 

初期研修を行った医療センターは、研修医がとても少なかったため、初日から病棟をまかされるなど指導体制が十分とは言えませんでした。

 

しかし一人前になる早さは早く、自分がこの患者を守らないといけないという使命感を常に感じて医療をする事ができました。またスタッフの人数が少ないため、医局という垣根を超えて学年の近い先輩が指導してくれる事はとても安心感がありました。

 

記憶に残っている一言は、

 

静脈確保の作業に慣れない私に、日頃痛がりの先輩が『俺の腕使って練習しろ』と涙目で言ってくれた事。

 

息を引き取る直前の受け持ち患者が『先生に会えてよかったよ、ありがとう』と言ってくれた事。

 

辛い時に乗り越えられたのは、一緒に戦った仲間や想いの通じた患者の存在があったからです。漫画ONE PIECEにもあるように信頼できる仲間や信頼してくれる患者がいたからこそ、私は人生の荒波を乗り越えられました。

 

 

4.他職種との関わりで心がけていること、難しいと感じること、失敗談

 

他業種との関わりで一番心がけている事は、職域にとらわれないで人と関わり、仕事をする事です。私は医者だから・・・、患者だから・・・、障害者だから・・・ではなく、山田さん(患者さん)のためだからこれをしようとか、医師としてではなく、私(一人の人間として)はあなたにこの治療をうけてほしいという感覚を大切にして仕事をするこころがけです。

 

仕事、遊び問わず一人の人間として人と向き合い、仕事や職種の枠をこえて人と人が影響し合う事こそ生きる楽しみだと思います。各地のセミナーで話すデジタル障害者ケアのアイデアの多くは、これまでに関わった患者さんの声から学びました。彼らは私にとっては患者ではなく生きる教科書なのです。

難しいと感じる事は、例えば全盲の人が何に困るか等の自分にはない物を持つ人々の想いを引き出す時です。そんな時のこころがけとして、まず言葉を変えます。“難しい”は“やりがいがある”に、“緊張する”は“ワクワクする”に、そしてどこへでも飛び込んでみます。全盲の方の飲み会に参加すると本当に学ぶ事は多いです。

また私には目の不自由な精神科医の友人がいます。彼は初診の患者に次のような言葉をかけるそうです。

『僕は目が見ないから、安心して下さい』

目が見えない方がいい時もあると彼は私に教えてくれました。

人は体験を通してしか学ぶ事は出来ないというのが、私の信条の一つです。視覚障害を楽しむ彼を友人に持てる私は本当に幸せだと感じています。

 

 

5.ワーク・ライフバランスについて

 

日々の労働の疲れを癒し、体を休めるための休日ではなく、週明けにより活力をもって仕事にいけるように休日を生かす事が大切です。そのためには仕事の仕方を真剣に考えて、仕事にやりがいと誇りを持つ事が大切だと思います。仕事を充実させる事ではじめて休日の活動性も上がります。仕事と休みとは好敵手のような存在であり、『よく学びよく遊ぶ』事こそ、子供も大人も一番大切な事だと思います。

 

 

6.医師のキャリアアップについて

 

専門分野が細分化する現代医療において、何をどこまでやりたいかを社会に出る前から想定して、方向性も持って進路を選ぶ事が重要だと思います。大学に残って専門性を追求するのもいいし、技術や実践を早く学んで地域医療の最前線で活躍するのもいいと思います。簡単に言えば何に自分が一番ワクワクするかを見つける事こそが、大切ではないでしょうか。

 

ちなみに私のように専門性を複数持つ事を一種の特異性として生きる道も、これからの時代には一つの選択肢となると思います。私は産業医としての業務の中で眼科における眼精疲労対策や視覚障害者の就業ケア等、内科や精神科をベースとする産業医とは異なる専門性を発揮する事で自分らしく産業医ライフを楽しんでいます。

 

 

7.学生、若手(研修医)に向けてメッセージ

 

学生時代や研修医時代に是非考えてほしい事は、なぜ医者になりたいかの理由を本気で考える事です。それさえしっかり見つかっていれば、いつか必ず本当にやりたい仕事に出会えるはずです。

 

頭で考えるのではなく、ボランティア活動に参加したり一人旅や演劇をやったりと、一見将来の仕事と直接的には関係ないように感じる事でも、自分自身が熱くなれる物を探す体験を一つでも多く経験する事をお勧めします。それこそが必ず将来の道を築く糧となり、未来の自分を助けてくれます。

 

私の場合は、ワクワクの源は自分の成長を感じる事でした。患者(他人)との壁という永遠に超えられない壁を超えようと努力し、成長し続ける事を求められる仕事、それが医師や産業医だと思います。

 

大学時代に学生主体で行ったACLS(二次救命処置)勉強会、部活での血友病の子供達を連れてのキャンプで行った演劇や人形劇、下手でも続けた美術や音楽、そのすべては今の私の強みであり、楽しみとして日々の仕事に生かされています。どうぞみなさんもワクワクの源をいっぱい見つけて自分らしい働き方を見つけてみて下さい。