藤井千江美看護師

奈良県出身。20代後半から30代前半、一人旅の魅力にとりつかれ、旅行会社に勤務しながら世界各地を旅する。

92年、アフリカ専門の旅行会社の南アフリカ駐在員として赴任し、その後6年間南アで働く。

2000年大阪府立千里看護専門学校入学。03年三重大学医学部付属病院に1年間勤務後、04年イギリスLiverpool School of Tropical Medicineで熱帯医学を学び、その間ケニアのPCEA Chogoria Hospitalで5週間実習し、HIV/エイズ問題に関心を持つ。

05年10月から2年間、JICAシニア海外ボランティアとしてボツワナでエイズ対策に従事。

08年5月から3年間、JICA専門家としてシエラレオネで保健プロジェクトに従事。12年4月から大阪大学大学院人間科学研究科に在籍。

 

1.看護師を選んだ理由

 

20代の頃バックパッカーで世界を放浪したときに西アフリカに初めて行く機会があり、アフリカを去るときに何か惹かれるものがありました。その後、南アフリカで旅行会社の仕事をやっていたときも何度か足を運んでいました。そのうち、旅行会社の仕事でアフリカに滞在するのではなく、大好きなアフリカでアフリカの人のために何かできないかと思い始めました。35歳のときに、ゼロから新しいことに挑戦するのは気力・体力ともに今が最後かもしれないと思い、南アフリカの旅行会社の仕事を辞め37歳で看護学校へ行き看護師になりました。

私の場合は、看護師になった理由は、現地の人が一番必要としていることは医療ではないかと感じ、大好きなアフリカで保健医療活動がしたいと思い看護師という職業を選びました。

 

 

2.国際保健や職場のメリットやデメリット

 

国際保健や国際協力の仕事を通して、国内における(保健)問題も見えてくることです。

例えば、アフリカ諸国ではすでに対策がかなり進み、新規でHIVに感染する方は減少してきているのですが、日本は毎年増加しているにもかかわらず、それほどHIV/エイズの問題が人々に深刻な問題として浸透してきておらず、近い将来、日本ではHIV/エイズは深刻な問題になると思います。そんなときに、アフリカ諸国などがやってきた対策を、私たちは学ぶ必要があるかもしれませんね。また、国際協力、支援のやり方をみていると、東日本大震災のときの支援や、また病院勤務時代の看護師としての患者さんへの関わり方にも相通じるものがあり、改めて振り返る機会にもなります。デメリットはないですね。全て何でも経験で、きっとどんな経験も自分にとって役に立ちますので・・・。

 

 

3.若手時代の苦労や頼りになった先輩からの一言、辛い時どのように乗り越えたか

 

三重大学の医学部付属病院に新人として就職しました。その時私は40歳で、正直、体力的にもきつかったし、22歳の2人の同期の方々がさっさと覚えることが覚えられないし、何ひとつするにしても時間がかかりました。先輩から採血でも最低3回の失敗までは自分で挑戦するように言われていましたが、2回目で患者さんに申し訳なくて先輩を呼びに行き怒られることもありました。できない自分が情けなくて、涙が出そうになったら患者さんの前では涙を見せないようにこっそりトイレで泣いたこともあります。

辛かった時に乗り越えられたのは患者さんからの言葉があったからです。いくつか励まされた言葉はありますが、一番辛かった時にかけてもらった言葉は・・・ある患者さんで結構文句を言う方がいて、看護師さん達はあまり関わりたくないという感じでした。その患者さんからナースコールがあり行くと、熱が出てきたので氷枕が欲しいと言われました。準備して戻ると、「藤井さんが入れてくれた氷枕気持ちいいな」と一言。気難しい方でそんな言葉を全く予期していなかったので、びっくりしていると「藤井さんはよく廊下で怒られているな。でも大丈夫。看護師は技術ができればいいってものではない。こうやって患者さんが本当にきもちいいと思える、そういうことをできるのが看護師や」と。辞めたいと思っていた気持ちが、その一言に救われました。10年以上経った今でもはっきり覚えています。他にも患者さんから嬉しい言葉をかけてもらったことがあり、やはり一番辛い時を乗り越えられたのは患者さんからの言葉に救われたからだと思っています。

 

 

4.他職種との関わりで心がけていること、難しいと感じること、失敗談

 

国際機関でも他職種との連携の重要性を訴えていますが、現実は相変わらず縦割りで横の連携ができていない状況です。どのような仕事でも、多かれ少なかれ他職種との連携は必要ですが、実際はなかなか難しいですよね。連携をするためには、まずはお互いのやっていることを理解し合い、そこからどのようなことが協力し合えるのかを話し合い、実施していく。この行程には、多くの時間が必要ですが、現場では限られた時間で、それぞれが成果を出す必要があり、分かっていてもなかなか難しいのが現実だと思います。対象地域や対象者、そして関係者が多ければ多いほど難しいと思います。利害関係も入ってくるでしょうし・・・。病院などの方が、他職種との連携はやりやすいと思います。

 

 

5.女性としてのワークライフバランス

 

私の場合は40歳で看護師になり大好きなアフリカで保健医療活動をしたいという自分の夢・目標を追い続けてきましたので、仕事と結婚の両立を希望されている方には参考になるかは分からないですが・・・。看護学校の先生、ブルキナファソの村おこし活動、地域おこしをしている村にスタディツアーで添乗員兼ガイドという、大学院に通いながら3つの仕事をしていますので、その部分では参考になるかなと思います。

一番大事なのは、楽しむことだと思います。仕事も生活も両方上手くバランスを取るのは難しいと思います。仕事がいっぱいいっぱいだと心の余裕がなくなってきてちょっとしたことでイライラしたり、とプライベートの生活が上手くいかなくなる。だから、一番心がけていることは自分がいっぱいいっぱいになるほど詰め込まないこと、少しでも心のスペースを作ること。今やろうとしていることを完璧にやろうとする、人に認められたい、と思うから無理が出てきてしんどくなる。だから、自分が今できるところまで一生懸命にやること、そのときに心がけるのは‘楽しむ’こと。そして、興味がないことに無理してがんばらなくてもいい。皆さんも看護師になりたくて選んでいる気持ちがあるはずだから、自分が好きで選んだ仕事だということを常に忘れないで、辛いことがあってもその初心に立ち返り、楽しむ心の余裕をもつことが大切です。

また、人と比較するのではなく、自分なりに一生懸命できることをやる。他の人と比べて結果が悪くてもそれはそれで自分がベストをつくしたのだからいいと思います。私も今それを心がけてバランスをとっています。

 

 

6.キャリア、キャリアアップについて

 

キャリアを積む、その根底はその仕事が本当に好きか、自分がやっていることや、やろうとしていることに本当に興味を持っているかだと思います。「好きこそ物の上手なれ」と言うけれども、好きだからどんなに辛くても続けていける。それがないと、キャリアばっかり考えていても積んでいけないような気がします。まず、キャリアを積むことを考える前に原点に立ち返り、自分の仕事ややっていることに対し、継続的に関わっていきたいと思っているのか振り返ることが大事じゃないかと思います。好きで関心のあることなら絶対にキャリアを積めると思います。自分がそうだったので。

私自身37歳のとき看護師になろうとしましたが、同級生は18歳、という状況で辛い時もありました。その度になぜ看護師になろうとしたのか、に立ち返りました。「好きなアフリカで保健医療活動をしたいから。」それを紙に書いて自分の部屋の勉強机の上に張っていました。

JICAの仕事もすんなり決まったわけじゃなく、NGOに応募しましたが何回も断られたりもしました。そのときも原点はアフリカが好き、好きなアフリカで保健医療活動がしたい、という強い思いがあったので、諦めずに挑戦し続けることができて少しずつ目標が実現しているのだと思います。ぜひ皆さんにも本当に好きなことや関心のあることを自分のキャリアにしていただき、それに向かってひたすら頑張っていれば、いつか必ず自然とキャリアアップにつながっていくと思います。

 

 

7.学生や看護師を目指す人へのメッセージ

 

今看護学校でも国際看護や災害看護を教えていますが、看護だけに狭くなっていくのではなく、広く浅くでもいいからいろんなことに関心を持って知識を増やしていってほしいということです。持っている経験や知識の引き出しが多いほど看護師としても役に立つと思います。患者さんは年齢もバックラウンドも色々な方がいらっしゃいます。幅広く経験を持っていると患者さんに接していく中でも役に立ちます。

看護師となり病院勤務していたとき、前の日の夜に癌の告知を受けた50代女性をその翌朝に受け持ちました。新人の私はどのように接するのがよいのか、どういう声をかければいいのか分からなかったのです。実際に患者さんの部屋に行くとベッドで暗い表情をされていました。どうしよう、と声をかけられずにじっと横に座っていると、「もう一度元気になって旅行にいけるかなあ」とぼそっと一言。「旅行好きなんですか」と聞くと、「一番印象に残ったのが南アフリカに行ったときなんです。」と返事があり、私も南アフリカの旅行会社勤務経験がありましたので、そこから南アフリカの話で盛り上がり、患者さんも明るい表情になっていきました。そして、ふと患者さんが「藤井さん、抗がん剤治療がんばって受けて病気治すわ。もう一度南アフリカに旅行いけるように頑張ります。」その言葉を聞いて、旅行会社の仕事がこんなところで役に立つなんてと、うれしく思いました。

そういうこともあるので、看護師になるから看護だけ勉強するのではなく、若いときにいろいろなバイトをして、いろいろな人と交流して、そして世の中の出来事に幅広く関心を持つことで多くの知識と経験を積み、是非看護に生かしていってもらいたいなと思います。